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LiV × LiVEs Part11:宗像の樵(きこり)進藤明範さん

執行 沙恵

LiV × LiVEs  Part11:宗像の樵(きこり)進藤明範さん

月に一度、さまざまな一次産業に関係する人たちとカウンター越しに語り合うLiV×LiVEs(リヴ×ライブ)。毎月変わる一夜店長。普段なかなか知り合う機会のない彼らが、どんなことを思い、どんな仕事をしているのか、生の声を酒の肴に交流を楽しむイベントです。

 

11回目の店長は樵(きこり)の進藤さん

今回の一夜店長は一次産業の中でもちょっと斜めの方向から攻めてみまして、「林業」のお話です。
お話してくれた進藤さんは業界の中でも若手の40代。とてもわかりやすく林業の現場についてお話していただいたのですが、それはまさに映画「WOOD JOB!」のリアル版!
樵は普段どんな仕事をしているのか?なぜ樵の仕事は必要なのか?ぜひご覧ください。

※今回は内容が盛りだくさんで、文字数がこれまでのレポートのなんと2倍!時間のない場合は気になるタイトルからぜひお楽しみください。

 

本日のドリンク

これぞ…樹液??

 

本日のドリンクは樵の店長にちなんで「樹液スペシャル」。樹液とはいうものの、内容はLiV KiTCHENで出しているシトラスネードのホットバージョンです。シトラスネードはカボス、青レモン、ライムの柑橘系シロップ。アルコールはウォッカが入っています。「樹液です」と言われて飲むと本当にそんな感じがするので不思議。
「果実は木からできる塊と思えば、樹液っちゃ樹液ですよね」と進藤さん。ふむふむ、確かに。

 

進藤さんが樵になるまで

進藤さんは宗像生まれ。現在冬は樵として林業を、夏は造園の仕事をしていますが樵として仕事を始めたのは進藤さんの代から。
ご両親はなんとどちらも学者で、お父さんは教育大で先生を、お母さんはこれまた教育大でピアノの講師をしていたそうです。

 

社会人になりたての頃は全く違う仕事をしていた

持ってきた仕事道具の説明も交えてお話する進藤さん

 

進藤さんは大学で微生物学を専攻。社会人1年目の就職先は東京のビルメンテナンスの会社で今と全く違う仕事をしていました。不規則な勤務体型に体調を崩してほどなく宗像に帰省。そこで造園業の求人を見つけます。そこに5年修行して独立し、13年「庭師進藤」をしたのち、現在は縁あって「松本造園」に戻り社長を継いでいます。

 

なぜ造園業を選んだかって…

「東京にいたとき、会社の人と『なくならない仕事ってどんな仕事なんですかねぇ』と何気なく話していたことがあって。そのときは植木屋とか金属回収とか、葬儀屋とか?…そんなことを言ってたんですけど、そのときからなんとなく頭にあったのかなぁ」
なくならない仕事で植木屋とはちょっと意外だなと思ったのですが、実際にはリピート客がいて毎年声をかけてもらえるので意外と仕事はあるんだそうです。

 

樵になったのはいつから?

「庭師進藤」として独立して少したった頃、森林環境税という県の補助金の制度が始まり、進藤さんのもとに山の手入れをするための人手が足りないという話が来ました。
「造園の仕事って草木の伸びない冬は仕事がないんです。代わって募集のあった林業のシーズンは冬。人手が足りないということだったし、仕事としてちょうど良かったんですよね。」そして樵の道を進み始めます。

 

こんなことありました

資料を見ながら説明を聞きます

 

進藤さんは主に宗像市内の山を手入れしています。手入れの方法を教えてくれる学校などは特になく、先輩と一緒に山に入って実践を積む中で技術を習得していったのだそう。最初は怖くなかったですか?
「いやー、ヤバい目には相当あいましたよ!『九死に一生スペシャル』に取り上げられそうなこととか何度も遭遇してます。骨折とか木から落ちたことはないですけど、打撲して肩の辺りがゾンビみたいな色になったことはありますよ」
五体満足で特に大きな怪我もなさそうな進藤さんですが、切った木が自分の方に倒れてきて自分の目の前を滑り落ちていったような間一髪も経験したそう。樵には怪我はつきもの。おかげで保険はトンネルを掘る人たちの次に高いんだそうです。
「作業現場が基本的に山奥なので、大きな怪我をしてしまうといろいろ間に合わないんですよね。救急車を呼ぼうとしたところで山奥には住所がないから、ピンポイントで来てもらうなんてできないですし」
なので基本的に一人での作業は絶対ダメ。じいちゃんが一人で山に作業しに行って帰ってこないなんて話は未だによくある話なのだそう。必ず2、3人で山に入って声をかけながら適度に休憩をとり、お互い切り倒す木に注意しながら作業をしていくといいます。

 

木こりのアイテム紹介

奥に大きいサイズ、手前に小さいサイズのチェーンソー

 

今回は進藤さんが実際に山で使っている道具をもってきてくれました。RPGのゲームに出てきそうな「リアルな武器」に男性陣のテンションが上がります!これぞ男のロマン!みんなチェーンソーを構えて記念撮影。

 

こんな大きなチェーンソー見たことない!

見てくださいこの満面の笑み!

 

写真のチェーンソーは刃が1m以上もあり総重量なんと20kg!排気量も100ccもあるのだそう。「これでお値段35万円くらいですかね」と進藤さん。
小さいチェンソーでも排気量は50ccあり、排気量でいうと原付バイクと同じなんですね。小さい方でも15万円ほどするとか。
刃は近くで見ると「こんな形で切れるの?」と疑いたくなる不思議な形状をしています。この刃一つひとつがカンナの役割を果たして木を切っていくのだそうです。

不思議な形状の刃

 

切れなくなった刃は一つ一つすべて自分で研ぐのだそう。大変だ…。

 

刃から身を守る作業着

作業着の内側も見せてくれました

 

こちらは切断防止用素材でできた作業用パンツ。生地は長い化学繊維を編み込んでつくられており、万が一チェーンソーの刃が当たっても繊維が刃に巻き付いて回転を止めることができるような作りになっています。
他にも頑丈な足袋(たび)を見せていただきました。足袋のつま先には鉄心、それに続いて切断防止のパットが入っていて、万が一のときチェーンソーの刃から足を守る作りになっています。足の裏は山の急斜面にも耐えられるようにスパイクがびっしり。
樵が身につけるものは単なる作業着というより防具という感じがしました。危険な機材を扱う樵が少しでも安全に作業を行うための工夫が細部まで施されているのですね。

 

山の中での七不思議

その1. 散乱する謎の一升瓶…

「山に入るとね、よく一升瓶が落ちてるわけですよ」
「…まさか、昔の人は仕事中に酒を飲んでいたのか…??」樵になりたてだった頃の進藤さんと同様、参加者の頭にもそんな疑惑がよぎります。
「でも年配の先輩に聞くと、一升瓶をどうやら油入れに使ってたらしいんです」と進藤さん。「油??」
聞くと、昔の人は木を切るために山に入るとき、一升瓶にのこぎりに垂らす油を入れて持って行ったのだそう。チェーンソーで木を切る際にも油をさすのですが、手軽なオイルタンクのなかった時代は一升瓶を代用にしていたのでしょう。
なぁんだ、山の中で飲んだくれていたわけではなかったんだ。笑
その一升瓶はおそらく戦時中かそれ以前から見られたのではないかということです。

 

その2. きれいに隠された謎のテント…

過去には意味深な、周りが草木で隠されたテントを見つけたこともあったそう。マンガの世界のように「どこかの国の工作員か!?」と好奇心を掻き立てられつつも、身の安全を優先して中は確認しなかったとのこと。山の中ではそんなものにも遭遇しちゃうんですね。

 

その他にもいろいろな発見が

「昔の人の米作りに対する執念を見つけたりもするんですよ」
深い山奥の谷筋に池が作ってあり、そこに一畳分くらいの田んぼの跡を発見したこともあったそうです。またそこにはその田んぼを作るための石畳がずっと周りに積まれていたといいます。
地主からの取り立てを免れたかった小作人が山奥でこっそり米を作っていたんじゃないか…話を聞きながら参加者みんなでそんなことを想像したのでした。

さまざまな憶測に花が咲きます

 

樵の必要性

進藤さんたちが行う林業は保育間伐というもので、山の木々の状態を良くすることを目的としています。材木にするために木を切っているわけではないのですね。
県は森林環境税という仕組みをつくり、山の手入れを林業従事者へ依頼しています。そこには税金を使ってでも山を整備しなければならない理由とその経緯がありました。

 

なぜ山には手入れが必要なの?

「山の手入れをしていないと、大雨のときなどに地すべりが起きてしまうんです。『山に木が生えているなら大丈夫だろう』と言う人もいますが、たいていの山を覆う杉や檜(ひのき)は人間が植えたもので、自然界ではありえないくらいの密度で植わっているんです。なのでそのまま育つと途中から葉と葉がせめぎあって日光を遮り、地面に日が当たらなくなってしまう。日が当たらない土には草が生えないので、石や岩がごろごろ転がった地面になる。そこに大雨が降るから全部流れていってしまうんです。地面に日があたって適度に草木や低い木が生えてその根が地面をつかんでいてくれたら、大雨が降っても流れないんですけど。
なのでそうならないために、10本木が植わっていたら3本切る、という「30%間伐」を行っています」

<30%間伐のイメージ図>

 

30%間伐では上の方の枝が分かれているもの、先が曲がっているものなど、より日を遮る木から切っていきます。一人前になると1日1人一反(100m×100m)の面積の木を切るんだそうです。切る本数は1日に200本にもなるとのこと!すごい!

 

そもそもなんでそんなに杉や檜が植林されたの?

戦後すぐ、多くの家が焼けてしまったことで材木の需要が高まり、木材バブルが来たといわれています。木材を供給できた人が大儲けしたことで次から次へと人工林が増えたのですが、その頃から外国から安い材木が入ってくるようになります。
日本の急斜面で切った木材は搬出が大変で運搬コストがかさむ一方、海外からの木材には関税がかからないことなどの理由もあり、結果的に海外の木材の方が安くなりました。そうして国産の材木は売れなくなり、人工林だけが残ることになったのです。
一時の利益を追い求める時流が生んだ、負の遺産ですね。

 

動植物にとって住みにくくなってしまった今の山

植林の行き過ぎた山は土砂崩れが起きやすいことに加え、動物にとっても住みにくい環境であると進藤さんはいいます。
「人工林には木の実を落とす木が植えられていないので、動物にとっては餌を取りにくい環境です。なので手入れが遅れるとますます日は差さなくなるし、草が生えなくなるし、木の実も運ばれない…ただ薄暗い、生物のいない死んだ森になってしまう」

 

山を守ることは海を守ることにつながる

<自然の中で水が循環している図>

 

山の豊かさは結果的に海の豊かさにつながっていくといいます。このことを進藤さんがわかりやすく説明してくれました。
「豊かな山には落ち葉が土壌に重なり、腐葉土という栄養豊富な層ができます。そこに雨が降ることで栄養分が川に溶け込んでいき、海に流れ込んでいく。それをご飯にしてプランクトンが増えて、それを食べて魚が元気になる。山から海へは全部がつながっているんです」
「山は木が生えているから大丈夫」というわけではないのですね。これらの話を聞くと、未来の日本のためにも、また防災のためにも、税金を投入してでも山の手入れはしていかなくてはならないことだということがわかります。

 

林業従事者の現状

林業の必要性がわかったところで直面するのは、その担い手が不足しているという現実。映画「WOOD JOB!」の影響もあってか、最近では20代の若い子で林業に携わる人もちらほら見かけるそうですが、現実的に大変な面も多いそうです。
林業に従事するとどんな現状が待っているのでしょうか?後継者問題についても聞いてみました。

 

「やりたい!」といってやれるもの?

そもそも林業は「やりたいです!」と志願して簡単にできるものなんでしょうか?

防音機能付きヘルメットをかぶってみる

 

「やれますね。やる気があれば。あとは、危険性と給料の安さに耐えられれば」と辛口コメントの進藤さん。
林業が活発に行われる季節は冬で、夏はオフシーズン。一年を通して仕事ができないので食べていくためには兼業が必須で、夏は農業に従事する人が多いそうです。進藤さんも夏は造園の仕事をメインにしています。冬のシーズンだけで1年分の生活費を賄えるだけの給料でもないため、林業だけで生きていきたい!という人にはハードルが高いようです。

 

自分の代では絶対元がとれない

間伐を丁寧に繰り返して1本の木をまっすぐ太く育てることができれば、将来立派な材木として市場にお披露目することができるかもしれません。が、木は生き物。立派に育て上げるのには長い時間と労力が必要です。
「一枚板になるような木に育てるには100年が必要でしょう。一世代で働ける期間が30年としたら、3世代分の時間が必要になります。大きな柱として使える材木を作ろうと思っても、少なくとも50~60年はかかる。自分の代じゃ絶対元がとれないんですよね」
子どもや孫が必ずしも親の仕事を引き継がなくなった現代において、100年規模の材木はどんどん手に入らなくなってきているといいます。

 

さいごに

現役の樵である進藤さんに林業の未来について聞いてみました。

作業で主に使っているのは小さい方のチェーンソー

 

「林業自体はなくなりはしないでしょうけど、明るくはないのかなと。ますます人も減っていくうえに、重労働ですから。あえてこの仕事を選ぶのかというのもあります。
でも防災の面から見ても、なくなると困る産業ではあります。今のままでは荒れた山が増えていくのは目に見えていますから。後々のことを考えると税金を投入してでもしなければいけない仕事ですね」
普通に暮らしているだけではまず知ることのない林業の仕事。危険を伴う上に従事するにはなかなかハードな現実も待っていますが、進藤さんは山での作業をこう言います。
「朝から現場で焚き火して、おにぎりを焚き火であっためて、日が暮れる前には帰る…。いい仕事ですよ」
戦後の日本が生んだ負の遺産を引き受け、山の土砂崩れを防ぎ、放っておけば死んでしまう山を守り、川や海に流れ込む水もきれいにする。
日本の未来を陰ながら支える樵の存在はいうなれば「山の守り神」!
この記事を読んで樵の仕事に興味の湧いた人、山の守り神になってみませんか?

 

■質疑応答コーナー■

本文に掲載するとあまりに尺をとるので最後にもってきましたこのコーナー。興味のある方はぜひのぞいていってください☆

 

Q.大きなチェーンソーってどんなときに使うんですか?

「それなりに幹が太い木を切るときに使いますが、最近は『落ち葉が邪魔だから切ってほしい』という依頼で切ることがありすね」
宗像大社の木も落ち葉問題で依頼があったりするのだそう。大社の木だなんて、それはもはや御神木なのでは!?しかし現実的にご近所問題などはなかなか深刻なのだそう。人が生きているより長く生きている木であることを思うと、依頼とはいえ複雑な気持ちになります。

 

Q.「木を切ってほしい!」その場合金額てどれくらいするものですか?

「金額はピンキリです。木の大きさにもよるし、周りの環境やリスクなどによりますね。切った木が住居の上に倒れかかっていかないか、切った後の木を搬出するためのトラックが入っていけるのかとか。木を切る以外にもたくさんの工程がありますから、その環境によります。」とのこと。なるほどー。

 

Q.山は一度手入れすればもう手入れしなくてもいいの?

いいえ、手入れは一度切りではなく十数年周期で行っていく必要があります。間伐を行っても残った木が成長していくとまたせめぎあって日を塞ぐので、そうなったらまた間伐を行うのです。

<30%間伐を行ってもまたせめぎあいが起こるので、更に間伐を行います>

 

最終的に10m四方に2本くらいの間隔になればもう手入れは必要なくなるといいます。

山だらけの日本において、手入れが必要な山の面積をカバーするだけの人材はとても確保できていません。これからは手入れの必要のない山にしていくために、今の杉や檜が植えられた山を自然の山に還していくのも一つの方法かもしれないと進藤さんは言います。

 

Q.切った木はそのまま放っておいて大丈夫?搬出するの?

倒した木はそのまま寝かせておいて大丈夫です。5年もすればシロアリやキノコに分解されて土壌に還り、山の肥やしになっていきます。ちなみに木の繊維であるリグニンを分解できるのはこのシロアリとキノコだけ。里に下りてくると厄介なシロアリも、自然界での循環サイクルの中ではなくてはならない生物なんですね。

 

取材・文・写真:執行沙恵

※この記事は2019年LiVE KiTCHENで毎月開催されていたイベント「LiV×LiVEs」のレポートを転載したものです。

執行 沙恵
記事を書いた人の情報
執行 沙恵
MOKでは主に記事作成を担当。1986年福岡市出身、宗像在住。市民活動・NPOセンタースタッフ兼、フリーでデザイン/ライターも。臨床検査技師として病理検査室に勤務のち、金融機関で4年営業職を経験しコミュニケーション力を鍛える。NPO法人福岡テンジン大学との出会いをきっかけに自分の住む「まち」との関わり方を考えるようになり、縁あって宗像市の市民活動を支援・コーディネートする現職に落ち着く。2020年に息子が生まれ、海の幸、山の幸、自然環境、さらには人の温かさあふれる宗像の魅力をそれまで以上に感じながら育児を楽しんでいる。育児と仕事をバランスよく楽しむ方法を模索中。 B'zファン歴21年。カラオケと猫とスイーツが好き。
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